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福岡家庭裁判所小倉支部 昭和41年(少)4511号 決定 1967年1月20日

少年 S・A(昭二三・五・二九生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

一、非行事実

少年は、さきに○○○中学校時代の同級生○藤○男(一八歳)から金銭を無心されたのを拒絶したことに因縁をつけられ住居区内○○○小学校横の○○公園で顔面を殴られ、次いで坐らされて足で顔を数回蹴られたことがあつた者であるが、それから四か月経つた昭和四一年一二月○○日午後八時五〇分ごろ、情を知らない友人の○本○孝から呼出されて自宅(本籍と同じ)玄関前に出ると、前記○藤が一寸来いと言つて少年を附近の暗がりをあちこち引廻して金銭を貸せと執拗に要求し、「今までの俺と違うんぞ、なめるな、○○組(暴力団として有名)の金○郎さんの若い者になつたんぞ、他の者に貸して俺に貸さんのか、金がなければ背広を持つて来い、背広を持つて来んならお袋(母の意)にうまいこと言つて金を借りて来い、お前がお袋に言われんのなら俺が一緒に行つてうまいことお袋に言つてやる」等と申向け少年の丸首メリヤスシャツの首のところを握つて少年方の玄関前まで同行したので、少年は再び暴行を加えられることをおそれ刺身庖丁で嚇したら逃げるだろうと考へ、自宅の炊事場に置いてあつた刄渡り一九糎位の刺身庖丁一本を持ち出し、玄関前に立つていた前記○藤が金を持つて来たかと言うや、これで刺せば相手を殺すかも知れないことを知りながら、激昂の余りいきなり同人の腹部目掛けて数回突き刺し、よつてそのころ少年宅の斜前の同番地○林方前路上において、心臓刺傷による出血のため死亡させ殺害したものである。適条 刑法第一九九条

二、要保護性

本件調査審判の結果によれば、次のことが認められる。

(1)  犯行動機等

被害者○藤○男は少年と同じ○○○中学校の卒業生で、卒業後は寿司屋、食堂等職種職場を転々としおり、一六歳ごろから不良化し保護観察中の者であつて同年輩のグループを作り高校生からの金員喝取、通行中の婦女子に対する嫌がらせの常習者である。その兄(修○)とは双生児であるが、同人も現在人吉少年院に在院中である。前段認定のとおり本件非行の動機からすれば、非は全く被害者○藤側にあつたといつてよいこと。

しかし少年としては、前回も暴行を受けており、今回又しても自宅まで自動車で乗りつけ金銭を無心し背広を持つて来いとか、母親を欺して金を持つて来いとかいわれて金は貸せないしそうすれば又も暴行を受けるかも知れないと半ば畏怖し昂奮したことは無理もないところであるが、自宅には母や弟も居合わせておりそれらと相談すれば母もかよわき女ではあつても少年に代つてその場を取り繕う才覚はあつたであろうし、近くに交番もあること故弟をそこへ走らせることもできた筈であり、敢えて事茲に至らずとも他になしうべき術のあつたことを考えると、少年についても責むべき点がないわけではないこと。

(2)  資質面の問題点

少年に対する鑑別結果によると、身体の発育は普通より稍良好で健康、ただし吃音気味の点が認められる。知能は障害なく普通域に近い。唯性格は年齢、身体的発達に比して精神的発達の未熟さが目立つ、すなわち、我儘身勝手で、大いした理由なしに転職を繰返えして稼動生活に安定せず、徒遊、遊興になじみ勝ちであり、身体の大きいことなども手伝つて派手な服装等を好み、不良誇示的傾向を多少とも示しているなど虞犯的傾向が窺われること。

(3)  保護面の問題点

家庭的には父母同胞間に問題はないようだが、父母の少年に対する幼少時からの養育が放任的、盲愛的であつた点は、早期に喫煙、飲酒、パチンコ遊びをしておること、派手な服装好みを指摘されて定時制高校を中途退学していること等からも推察される。そしてこれらの外形的に生活の乱れともとられるところのものが、本件被害者のような不良者から眼を着けられる弱点となつているといつてよかろう。かかる保護面の改善は現在では保護者のみに期待することは困難であると認められること。

(4)  少年の生活史学業職業家族関係の詳細については少年調査記録の記載を引用する。

三、少年の処遇

本件非行の重大性に着眼すれば少年の年齢からして当然刑事処分ということになるのに、本件事件を送致した検察官が敢えて刑事処分を求めていないのは非行の動機少年に非行前歴のないこと等を考えた結果であろう、鑑別官の意見は予後は楽観できないとしながら保護観察処分が適当であるとするもので、純理的に考えれば肯けないでもないが、保護観察の実情からすれば、果してこの方途のみで足りるといえるか疑念なきを得ない。当裁判所としては前記検察官の意見を考慮し、少年に対しては社会環境から一時隔離し、規律正しい生活の中で、本件非行の重大性につき深き反省を求めると共に前示のような虞犯的傾向を矯正し、なお他面保護者に対してもこれを機会に少年に対する従来の養育態度についての反省とその建直しを求め、かくして少年を社会復帰せしむることがその健全な保護育成を図る妥当な方途であると認める。よつて少年の年齢、前述の諸般の事情を勘案して中等少年院に送致することとし、少年法第二四条第一項第三号同審判規則第三七条第一項少年院法第二条第三号により主文のとおり決定する。

(裁判官 富山修)

重大事件報告書<省略>

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